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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠5(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,120 字 · 516 頁

青空文庫

五

五

その翌日の朝は、風の名残りはまだありましたけれど、雨もやみ、空も晴れて、昨夜の気色はどこへやらという天気であります。

洲崎の、もと砲台の下のいわの上に立って、しきりに遠眼鏡で見ている人がありました。

「清吉」

「はい」

「お前の眼でひとつこの遠眼鏡を見直してもらいたい、拙者の眼で見ては、どうも人の姿のように見える」

「お前様の眼で見て人間ならば、わたしの眼で見ても、やっぱり人間でございましょうよ」

と言って、清吉と呼ばれた若い男が、巌の上に立っていた人から遠眼鏡を受取りました。受取って危なかしい手つきをしながら、眼のふちへ持って行って、

「なるほど、人間でございますね、人間が一人、浜の上へ波で打ち上げられているようですね」

「もし、そうだとすれば、このままには捨てて置けない」

と言って、再び清吉の手から遠眼鏡を受取った巌の人は、駒井甚三郎でありました。前に甲府城の勤番支配であった駒井能登守、後にバッテーラで石川島から乗り出した駒井甚三郎であります。

あの時に、吉田寅次郎の二の舞だといって、横浜沖の外国船へ向けてバッテーラを漕ぎ出させて行ったはずの駒井甚三郎が、こうして房州の西端、洲崎の浜に立っていることは意外であります。