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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠5(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,120 字 · 516 頁

青空文庫

しかも最初に御用を言いつけたのは、大風な侍の言いぶりであったのに、二度目に確めに行った時の返事は、なまめかしい女の声であったということが、この酒屋の者の話の種でありました。それから毎日一升ずつの酒が、この屋敷へ運ばれたけれど、御用聞の小僧は、主人らしい人も、奥様らしい人も、また家来衆、雇人たちのような人の面をも、まだ見かけたことがありません。

「毎度有難うございます……」

と言って酒をそこへ置くと、

「どうも御苦労さま、それから明日はお醤油に波の花を……」

というような注文が台所のなかから聞えて、それは女ではあるけれども、さっぱり面を見せないのが変だといえば変であります。売掛けもどうかと思って、その月の半端の分を纏めて書付にして出すと、その翌日は綺麗に払ってくれました。支払の信用と共に化物の疑念は取れて、それより以上にこの屋敷を怪しがるものはありません。

この屋敷の一間で庭をながめながら、晩酌を試みているのは化物でもなんでもない、正真の神尾主膳であります。甲府を消えてなくなった神尾主膳が、ここへ来て浴衣がけで酒を飲んでいるところを見れば、かくべつ病気であったとも見えないし、また穢多に浚われて、ここへ流されたものとも見えません。