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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠5(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,120 字 · 516 頁

青空文庫

このままで帰れないのは、途中のそれらの心配ではなくて、人を斬らんとして斬り損じたことは、水を飲まんとして飲み損じたものと同じことであります。人を斬ろうとして家を出たものが斬らずに帰ることは、水を飲まんとして井戸へ行ったものが、水を得ずして帰るのと同じことであります。

こうして竜之助は、本多隠岐守の中屋敷の塀の下に立って、河岸に向いて立っておりました。

竜之助がここに立っているとは知らず、後ろから静かに歩いて来る人があります。それもたった一人で歩いて来ます。提灯も点けずにこの夜中を一人で歩いて来るのは、不思議に似て不思議にあらず、これはやはり杖をついた按摩でありました。笛を吹かないのはこのあたりが、いずれもお屋敷の塀であると知ってのことでしょう。

「もし」

竜之助がその按摩を呼び留めました。

「はい」

按摩は驚いたように、ピタリと杖を留めました。

「あの、本所へ参りたいのだが、その道筋は、これをどう参ってよろしいか教えてもらいたい」

「本所へおいでなさるのでございますか、本所はどちらへ」

「弥勒寺橋に近いところまで」

「弥勒寺橋……それならば、両国へおいでなすった方がお得でございましょう、これから少々戻りにはなりますがね」