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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁

青空文庫

ロータリー・クラブのときも同様で、とつぜん「きみは神皇正統記を読んだか」と話を変え、それはなんですかと反問されると、「ちょっと使いにいって来てくれ」と云った。

「資金の調達でね」と先生ははにかんだような笑いかたをして云った、「これからはきみに頼むわけだが、なに簡単なもんだよ」

先生は壁へ掛けてあるモーニングのポケットから、使い古した大きな名刺を出し、こばのめくれを指で直しながら、A、B、Cと三新聞社の名をあげ、Aは局付きのなに某、Bは社会部デスクのたれ某、Cはこれこれと教えた。

「みんなぼくの後輩なんだ」と先生は云った、「この名刺を見せればわかる、金のことは云わなくとも話はわかってるんだ、いいな」

八田青年はあいまいに「はい」と答えた。

「それから、この名刺は持って帰るんだよ、みんな気ごころの知れた男たちだから心配はないだろうがね、名刺というものはとかく悪用される危険があるんだ、忘れずに持って帰ってくれ、いいな」

八田青年は三新聞社の住所と、訪問する相手のことを確かめてから、不安そうな顔つきででかけていった。――高さ一〇メートルの跳び込み台に立って、初めてダイビングをしようとする人間のような顔つきであった。