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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁

青空文庫

「なんでまたそんな妙なことをしたんだ」

「猫のやつが不用心だからです」

「猫って、――あの近みちをするというやつか」

「なにしろはだしでずかずか通りぬけてゆくんですから、うちの中がよごれちゃってしようがないんです」

先生はモーニングをぬいで、袷と羽折に着替えながら、鼻をひくひくさせた。

「なにかへんな匂いがするな」と先生は云った、「誰か来ていたのかな」

「人間がですか、いいえ」八田青年は首を振った、「先生のお留守に人をあげたりなんかしやあしません、それにぼくにはそんな者はいやあしません、お茶を淹れますか」

先生はなお鼻をひくひくさせたり、首をかしげたりしていた。そうしてまた、それから幾らもたたない或る夜中、先生は誰かの唸り声と、おら、も、わがねわがね、というのを夢うつつに聞き、ああまた夢をみているんだなと思い、朝起きてから考えてみてやっぱり夢だったのだと合点した。

世間の不景気はひどくなり、事業界のゆき詰りとか中小企業者の倒産とかいう噂が、しきりに人から人へと語り伝えられた。これは日本では流行性感冒のようなもので、或る不定の期間をおいて襲来し、当局は慌ててそのときしのぎの対策をたて、中小企業者、低賃銀所得者などの犠牲によって景気の恢復を計るが、根本的な治療法を考えないから、ひとおさまりしたと思うとまたやって来る、