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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
勝手でも部屋でも、彼についてまわり、躯をすりつけたり、彼の手や足へ冷たい鼻を押しつけたり、坐ればその膝へ乗ったりする。――半助は徹底した菜食主義で、だしをとる鰹節以外には、魚も肉も絶対に喰べない。とらにも漬け物をかくやに刻んでめしに混ぜたのを与えるだけであった。
「魚や肉はな、躯に毒なんだよ」と彼はとらに云う、「魚だの肉を喰べるといのちをちぢめるだけだ、野菜と米のめしを喰べてさえいれば、病気にもとりつかれないし、寿命だけは必ず生きられるものなんだから」
とらはにゃあと、声を出さずになき、主人を見あげる。それはまるで、あなたの云うとおりです、知らない世間のやつらは哀れなもんですね、とでも云っているようであった。
めしを喰べるにも、半助は茶碗や箸の音をさせない。誇張していえば、物を噛む音さえさせないのである。したがって、そのようすは食事をしているというより、ぬすみ食いをしている、というふうであって、なにかを喉へつかえさせるとか、むせて咳をするなどということはまったくなかった。
朝めしを済ませると、半助はすぐ仕事にかかる。なにを作るかは判然としないが、小さいけれども樫材の頑丈な小机と、小刀や各種の鑿、糸鋸、特別に誂えたらしい小さなまんりき、三種類ほどの錐などが道具で、材料は上質の象牙と、鉛の延棒だけであった。