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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

線上閱讀佐藤 垢石《完本 たぬき汁(たぬきじる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 頁

青空文庫

四

一人が、社務所へきて、

『お札の一枚頂戴いたしたい』

『ご信心のことでご座ります』

役僧がお札を差し出すと、それを受けとりながら、

『ご境内の雪景色は一入ですな。ご無心で甚だご迷惑と存ずるが、せっかく参詣致したついでに、ちょっと額堂の軒下なりと拝借して雪の眺めをいたしたい。まだほかに、連れのものもご座る』

『まだ絶えて参詣人もご座らぬ。邪魔にもならぬじゃろう。ごゆっくりお休みなされ』

役僧は、風流の心を察したかのようであった。

万延元年三月三日は、黎明の頃から江戸にちらちらと雪が降った。

男坂の方から愛宕山へ、下駄ばきで傘をすぼめ、黙々として登ってくる町人然とした四人の者がある。やがて、山へ登りついて愛宕神社の前までくると、三人は玉垣の外に立ったが、一人は拝殿の広前へ立ち入って額づき、鈴の緒を振って祈願をこめた後、社務所の前へ立って、役僧に雪見の場所を無心したのである。

社に役僧というのは変であるが、当時は神仏合掌であったから、愛宕神社は円福寺で社務を執り、役僧が出張してきていた。

四人は、一列になって深い雪から下駄を抜きながら絵馬堂の方へ行った。