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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第五巻(あひるとさる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 頁
話は脱線するが、最近に見た新発明の方法によると称する有色発声映画「クカラッチャ」のあの「叫ぶがごとき色彩」などと比べると、昔の手織り縞の色彩はまさしく「歌う色彩」であり「思考する色彩」であるかと思われるのである。
化学的薬品よりほかに薬はないように思われた時代の次には、昔の草根木皮が再びその新しい科学的の意義と価値とを認められる時代がそろそろめぐって来そうな傾向が見える。いよいよその時代が来るころには、あるいは草木染めの手織り木綿が最もスマートな都人士の新しい流行趣味の対象となるという奇現象が起こらないとも限らない。銀座で草木染めが展観されデパートで手織り木綿が陳列されるという現象がその前兆であるかもわからないのである。そうして、鋼鉄製あるいはジュラルミン製の糸車や手機が家庭婦人の少なくも一つの手慰みとして使用されるようなことが将来絶対にあり得ないということを証明することもむつかしそうに思われる。現に高官や富豪のだれかれが日曜日にわざわざ田舎へ百姓のまねをしに行くことのはやり始めた昨今ではなおさらそんな空想も起こし得られるのである。
昔の下級士族の家庭婦人は糸車を回し手機を織ることを少しも恥ずかしい賤業とは思わないで、つつましい誇りとしあるいはむしろ最大の楽しみとしていたものらしい。