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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第五巻(あひるとさる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 頁
日本人の自然観は同時にまた日本人の人世観であるということもすでに述べたとおりである。「春雨」「秋風」は日本人には直ちにまた人生の一断面であって、それはまた一方で不易であると同時に、また一方では流行の諸相でもある。「実」であると同時に「虚」である。「春雨や蜂の巣つとう屋ねの漏り」を例にとってみよう。これは表面上は純粋な客観的事象の記述に過ぎない。しかし少なくも俳句を解する日本人にとっては、この句は非常に肉感的である。われわれの心の皮膚はかなり鋭い冷湿の触感を感じ、われわれの心の鼻はかびや煤の臭気にむせる。そのような官能の刺激を通じて、われわれ祖先以来のあらゆるわびしくさびしい生活の民族的記憶がよびさまされて来る。同時にまた一般的な「春雨」のどこかはなやかに明るくまたなまめかしい雰囲気と対照されてこの雨漏りのわびしさがいっそう強調される。一方ではまたこの「蜂の巣」の雨にぬれそぼちた姿がはっきりした注意の焦点をなして全句の感じを強調している。この句を詠んだ芭蕉は人間であると同時に、またこの蜂の巣の主の蜂でもあったのである。
このように自然と人間との交渉を通じて自然を自己の内部に投射し、また自己を自然の表面に映写して、そうしてさらにちがった一段高い自己の目でその関係を静観するのである。