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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
線上閱讀尾崎 士郎《尾崎士郎短篇集(あきかぜとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 頁
南里君は自分が今何をしたかということについて考える余裕もなく一羽の雛をつかんで右手を懐ろの中へ入れたまま自分の宿の方へ歩いていった。道が行詰って新しい道につづく橋の袂まで来たとき、雛の身体から伝わってくるぬくもりが次第に衰ろえつつあるのを感じた。懐ろの中であまりに強く握りしめたからであろう。そっと掌をひろげてみると雛はもう死んでいる。南里君はその死骸を川ぞいの草むらの中へ捨てた。同じ日の午後瀬川君が来たので、彼は、今朝鶺鴒の巣を見にいったという話をした。だが雛は二つしかいなかったというと、瀬川君は、いや、そんなことは無い筈だ。僕の見たときにはたしかに三ついた筈だが、と言いながら眉をひそめて、
「ことによると、瀧の家(淫売屋の名前)の女が怪しいぞ。夕方もう一度見て、いなかったらあいつに聞いて見よう」
と言った。眼に見えないものを欺き了せたという気持のために何ということもなく南里君の心は晴れやかになった。彼はようやくにして一つの危険を突破した人間を自分の中に感じた。一瞬間、自分がある欲情を充たしたということをのぞいては、すべての状態が元の通りではないか。