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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《尾崎士郎短篇集(あきかぜとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 頁

青空文庫

と申上げますと、あのひとはじっと歯を喰いしばったまま首をうなだれておしまいになりました。何しろ自由党のころから錚々たる名士であり、生に処する態度も死に臨む覚悟も平素の言動のなかにありありとあらわれてこのかたの往生際だけはどんなにかりっぱであろうなぞと心ひそかに想像しておりましただけに、こんなにとりみだしておいでになる姿をみると、何か自分が途方もない不幸にぶつかったような気がいたしました。そう言えば、わたくしがあのひとを刑執行の前の日に監房へたずねますと、あのひとはもうすっかり自分の運命を観念しておいでになる御様子で、

「どうも世の中のことはわからん、考えれば考えるほど不思議なことばかりです。第一、わたしが刑の執行をうけるなぞということは妙なはなしですな」

と、落ちついた声で申されましたが、そのとき格別何とも思わなかったそのときのことばがふとわたくしの頭に針でさすようにうかんでまいったのでございます。わたくしはそのときはじめてあのひとの心の底の秘密にふれたような気もちになったのでございます。

「何かおあがりになりませんか?」

と典獄が申しますと、あのひとは、テーブルの上のあたらしい蜜柑には手をふれようともせずに、だれかが喰べのこした蜜柑のふくろをとってしばらく啜っておられましたが、それを長いあいだ口の中で噛みしめ