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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《尾崎士郎短篇集(あきかぜとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 頁

青空文庫

「哲! 五銭と五銭で幾らだ。言って見ろ!」

怒気を含んだ父の言葉を浴びて、叔父は唇を顫わせたままへどもどしていた。父はすっかりおそれている叔父の前で罵り続けた。叔父の病症は益々悪くなってきたが、それでも彼にとって全く用事のなくなってしまった郵便局へ毎日出勤することだけは欠かさなかった。彼が時計と話をするようになったのはそれから間もなくである。その八角時計は事務室と父の居間(それが局長室になっていたのであるが)との境目になっている鴨居の上の柱に打ちつけてあったので叔父は時計と話をするために椅子を踏み台にしなければならなかったのだ。

父は叔父の首筋をつかんで玄関まで引きずっていった。叔父は子供のように声を立てて泣いた。――

この記憶だけがあまりに鮮かにわたしの頭に残っているのは、おそらくその翌日から叔父がばったりとこの事務室に姿を見せなくなってしまったからであろう。叔父はそれから半歳経たないうちに死んでしまったのであるが、死ぬ数日前、彼は看病している叔母の眼をぬすんで病床から抜けだし、こっそりと父の家へやってきた。それは夜であったが叔父が何処から入ってきたのかだれも知らなかった。