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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
線上閱讀尾崎 士郎《尾崎士郎短篇集(あきかぜとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 頁
わたしは窓から顔をつきだした。父は同じ位置に同じ恰好をして立っていた。しかし、わたしが慌てて手を上げようとしたとき傾斜になった道路を馬が急に走りだしたので父の姿はわたしの視野から消えてしまった。わたしの胸はある感動のために顫えはじめた。このときほど父の愛情をきっかりと自分の心にうけとめたことはない。幾度びとなく父の姿がわたしの頭の中を走った。靴の先きが長いマントの裾に掩われて、彼の痩せた身体が今にも前によろけそうに見えた。それは最早彼の肉体が生存に堪えなくなっていることを感じさせるほど危なげに見えた。そして、このときほど、父の姿が寂しく見えたことはなかった。彼の顔は、そして、わたしに注がれた彼の眼は、微かな子供への愛のためにのみ生きている人の索漠たる余生を象徴していた。
この瞬間はわたしにとって尊い記憶となった。何故なら、この日以後わたしは再び父を見ることが出来なくなってしまったのだから。――
二年後である。わたしは仏間の横の六畳の室に寝かしてある父の遺骸の前に坐っていた。彼の顔は白い小さい布によって掩われていたので、わたしには彼の死をはっきりと意識することができなかった。