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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
線上閱讀木暮 理太郎《山の憶い出 上(ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ))》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 頁
其奥に仄に紅味のさした紫にぬりつぶされて、秀麗な錫ヶ岳が西の天を限っていた。久振りで眺めた中禅寺湖畔の秋色は矢張り勝れていると思った。
戦場ヶ原は秋正に闌である。東から北にかけての落葉松の林が続いていたように覚えているが、今は殆ど伐り尽されて、眺望は開闊になった。男体太郎二山の裾や小田代原方面の紅葉も無論よいが、泉門池の北方で湯元への道が端山の裾に沿うて緩かに上るあたり、掩いかかる大木の梢から下枝の先に至るまで、鮮かな黄に彩られた霜葉の美観は、蓋し此処の圧巻であろう。温泉岳から金精山や前白根に至る諸峰も指呼の間にある。奥白根の絶巓も何処かでちらと見たようであったが判然しない。
湯元に来ると二度も雪が降ったという程あって、紅葉は既に爛熟して、次の木枯には一たまりもなく吹き掃われそうである。濃紅の色の中にもはや凋落の悲哀が蔵されている。それが又黒木の茂った静寂な環境と調和して、寧ろ凄味ある湯ノ湖を中心に、陰鬱ではあるが、極めて荘重な風景を現している。日光の秋はここに至って時と処と共に其極に達した。湖の北畔の水際からは湯のけむりが濛々と立ち昇って、夕暮の晴れた空に消えて行くのであった。