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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
線上閱讀木暮 理太郎《山の憶い出 上(ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ))》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 頁
左の方を登って行くと峰頭が鋸の歯を刻んで、路は歯と歯の間を右に左に搦むのであるが、危険だと思うような所は一つもなかった。其実の如く名も鋸岳と呼ばれている。絶巓はつまりこの鋸の歯の一つが高く大きくなったものに過ぎない。二等三角点の標石と何かの石像が二つ許立っている。二坪たらずの広さだ。五、六間北に離れて一段低い岩の上に御岳神社が祭ってある。此処から山稜を尚おも北に伝って行くと竜頭山に出て八町峠へ下れるそうであるが、筍のような峰頭を三つ四つ越さなければならないから、楽ではないそうである。
此山は標高僅に千七百二十三米の低い山ではあるが、秩父奥山の主脈を離れて独立高聳しているので割合に眺望は開けている。西北から東北にかけては上野州の平原を隔てて浅間山から日光火山群に至る幾十の峰巒を指点し得る筈であるが、今日は雲が多いので何一つ見えない。唯秩父奥山だけは三宝、甲武信から唐松尾、和名倉山まで、断続せる雲の間から望むことが出来た。南日君も今頃は八ヶ岳に登っている筈なので、遠く其方面に眼を放ったが、八ヶ岳は勿論北アルプスの大嶺は、霙々たる雲海の下に沈んで、終に一度も孱顔を顕わさないのは残念であった。