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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《思い違い物語(おもいちがいものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 頁
不躾にも立聞きをしていたらしい、右衛門の渋い顔は、そこでなごやかになり、温厚なおちついた微笑がうかんだ。
「いや結構、男らしくはっきりとよく云って呉れた、これで娘も納得したであろうし、わしもわしの妻もひと安心というものだ、いや忝なかった」
右衛門としては「しめた、厄のがれだ」と叫びたかったろう、だがそれは胸にたたんで、きげんよくその縁談をうち切った。
正確にいうとそれから三日めの早朝、まだほの暗い時刻であったが、泰三はまた台所へとび込んで来た。右衛門の話を聞いてからずっと、彼は夜になると考え事に耽った。昨夜などは殆んど一睡もしない。
――はてどうしたわけだろう、ここまで出ているんだが、……ふしぎだ、どうしても思いだせないというのはどうしたわけだろう。
こんな独り言を云いながら、輾転反側、そのうち猛烈に腹が減ってきて、どうにも忍耐ができなくなり、ふと台所で物音がするのを聞くと、矢も盾も堪らずとび込んでいったのである。
「おいなにか食わして呉れ」
彼はいきなりそうどなったが、ふと見ると、そこにはすでに津留が坐って、なんと茶漬を喰べているではないか。彼は「やあ」