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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《怪しの館 短編(あやしのやかた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 頁
憚らず所信を述べたものである。
矜持そのもののような融川が弟子に鼻柱を挫かれて嚇怒しない筈がない。
彼は焦ってこう怒鳴った。
「爪立ちするは大人の智恵じゃわい! 何んの童子が爪立とうぞ! 痴者めが! 愚か者めが!」
三
しかし北斎にはその言葉が頷き難く思われた。「爪立ち採るというようなことは童子といえども知っている筈だ」――こう思われてならなかった。でいつまでも黙っていた。この執念い沈黙が融川の心を破裂させ、破門の宣告を下させたのである。
「それもこれも昔のことだ」こう呟いて北斎は尚もじっと佇んでいたが、寒さは寒し人は怪しむ、意を決して歩き出した。
ものの三町と歩かぬうちに行く手から見覚えある駕籠が来た。
「あああれは狩野家の乗り物。今御殿からお帰りと見える。……どれ片寄って蔭ながら、様子をお伺がいすることにしよう」
――北斎は商家の板塀の蔭へ急いで体を隠したがそこから往来を眺めやった。
今日が今年の初雪で、小降りではあるが止む時なくさっきから隙なく降り続いたためか、往来は仄かに白み渡り、人足絶えて寂しかったが、その地上の雪を踏んでシトシトと駕籠がやって来た。