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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《怪しの館 短編(あやしのやかた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 頁

青空文庫

日置流系図

帷子姿の半身

トントントントントントン……トン。

表戸を続けて打つ者がある。

「それまた例のお武家様だ……誰か行って潜戸を開けてやんな」

こう忠蔵は云いながらズラリと仲間を見廻したが俺が開けようというものはない。

トントントントンとそう云っている間も戸外では続けざまに戸を叩く、森然森然と更けた七月の夜の所は本所錦糸堀でひたひたと並んでいる武家屋敷から少し離れた堀添いの弓師左衛門の家である。家内の者は寝てしまったが宵っ張りの職人達は仕事場に集まり、団扇でパタパタ蚊を追いながら、浮世小路の何丁目で常磐津の師匠が出来たとか柳風呂の娘は婀娜だとか噂話に余念のないさなか、そのトントントンが聞こえて来たのである。

「小六、お前開けてやんな」

職人頭の忠蔵は中で一番若輩の小六というのへ顎をしゃくったがいっかな小六が聞かばこそ泣きっ面をして首を縮めた。

「チェッ」と忠蔵は舌打ちをしたが、「由さんお前お輿を上げなよ」

「へ、どうぞあなたから」――由蔵はこう云うと舌を出したが、にわかにブルッと身顫いをした。さも恐ろしいというように。

「松公、お前立つ気はないか?」

「どうぞお年役にお前さんから……私はどうも戸を開けるのが昔から不得手でございましてね」