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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁
密客
心なき侍は、もう自分らの生涯には、戦争もあるまいなどと思い込むほど、泰平に明け、泰平に暮れていた。
密客
顔の見えないほど眉深な笠をかぶっている。背の高い四十前後の武士である。身なりや足拵えから見ると、旅馴れている遊歴の武芸者らしい。後ろから見てもどことなくその体には隙がない。
今――
岐阜の釜座町の辻で、彼は、中食などすまして出て行った。頻りに町の軒ならびを眺めながら行く。何を求めるのでもない。ただ時々、
「変ったなあ」
と、口の裡で呟いていた。
仰ぐと、町のどこからでも、岐阜城の巍然たる城壁が見える。――笠の縁に手をかけると、それにもややしばし見恍れている。何か、感慨に耐えないものがあるらしい。
ふと、すれ交った商家の妻らしい女は、彼の姿を振り向いて立ち止まった。そして供の手代らしい男と、頻りに小首をかしげて何か囁き合っていたが、やがておそるおそる近づいて、
「もし……。まことに、往来中で失礼でございますが、もしやあなた様は、明智光安様の甥御様ではいらっしゃいませぬか」
と、訊ねた。
ちょっと、驚いた態だったが、武芸者は、言下に、
「ちがう!」
云い放って、大股に、先へ歩き出した。