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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 頁

青空文庫

強右衛門は、再拝して、

「そのありがたいおことばだけで、身の疲れなども、忘れ果てまする。何としても、城中にあるお味方の最後のもう一耐えが大事です。案じられてなりません。さだめしまた、長篠の方々は、首を長うして吉左右を待ちおりましょう。――どうしても、帰らねば相成りません」

と、奥平貞能の方へ向き直って、

「では。おいとま致します」

と、辞儀をかさねて、立ち上がった。

「そうか……」

家康もぜひなく立った。しかしなお恋々とその素朴なうしろ姿へ向けて、

「城外まで見送ってつかわせ」

と、貞能へいった。

それから半刻ほど後には、鳥居強右衛門は、もう飄乎として、町の暗闇をあるいていた。

どこもかしこもすでに戸をしめて寝ていた。ただ、あすの早暁には出陣の空気が、どことはなく深夜の雲にも研がれている。

その夜空を、しきりと、五位鷺が啼いて行った。幾ぶんか雨気をふくんだ風である。山のほうは降っているらしい。

木戸木戸へ達しが届いていたとみえて、帰りはどこでも咎められなかった。彼はわれにもあらぬ足どりで、ふと薄暗い裏町から横へ入って行った。

壊れた板塀やら竹垣根が乱雑とつづいている。