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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 頁
「では、劉備玄徳の名は」
「後漢の英雄でしょう」
「そうだ。孔明を迎えて蜀を征し、三国の一方を占めて帝座にのぼった人物。この人がまだ志も得ず、孔明にも会わず、同族の劉表に身を寄せて、いわば高等食客をしていた壮年時代に、こんなはなしがある」
「はあ。どんなはなしです」
「一日、劉表と同席して、酒をのんでいたが、ふと厠に立ってもどって来た玄徳の顔を見ると、涙のあとが見える。劉表が怪しんで――君は何を悲しむのかと訊ねたところ、玄徳が答えるには――あなたのおかげで無事安穏に日々送っていられる御恩は、お礼の申しようもないが、ただいま別室で自分の体を見ると、久しく戦場の水を飲まず、美殿に安住して馬にも騎らないため、腿の肉がすっかり肥えてしまった。日月の過ぎるは早く、人生には限りがある。こうしているまに自分もつい安逸に馴れて、何も世にのこさぬうち老将の群れに入るのかと考えたら、堪らなく悲しくなって参ったのです――と、沁々、嘆息をもらしたという」
「なるほど。……玄徳はその時の何不自由ない境遇を怖れたのですね」
「わしもだ。無事は恐い。いまの秀吉はあやうい幸福にくるまれておるからな。