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しょうわよねんのぶんだんのがいかん

昭和四年の文壇の概観

平林 初之輔

線上閱讀平林 初之輔《昭和四年の文壇の概観(しょうわよねんのぶんだんのがいかん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,557 字 · 29 頁

青空文庫

三 実話文学の流行

この制約が撤廃されぬ限り、大衆小説は、ある程度まで、読者の回顧的、反動的趣味と迎合しなければならない。そしてますます急速なテンポをもって進んでゆく今日の社会では、大衆文学は、今日までのような伝統を墨守する限り、ますます読者の範囲をせばめてゆくであろうし、題材の制約を撤廃するならば、それは一般の通俗小説となんらえらぶところがなくなるであろう。

要するに大衆小説と通俗小説との関係は、旧劇と新劇との関係に似ている。ただ、ちがっているのは、旧劇が数百年来の伝統によって鍛え上げられた芸術的完成をもっているに反し、大衆小説は、全くそうした伝統をもっていない点である。そのために大衆小説は歌舞伎劇のような惰性的生命をもち得ないで、大衆の実質的興味が衰えるとともに弊履のようにすてておしまれないだろうという点だ。中里、白井、大仏氏らが筆をたったあとの大衆文学壇は、今日の状態では、沢田正二郎没後の剣劇と同一の試練にたえなければならぬであろう。

三 実話文学の流行

西洋ではロマンティシズムの末期に、次のような批難が作家に向かってなげられた。

「こんな小説はわざわざ時間をかけて読むには値しない、誰でも知っている、誰でも生活している生活を、紙の上に再現して、またそれを読んだところで何の興味があるか?」