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ほんじょまつざかちょう

本所松坂町

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《本所松坂町(ほんじょまつざかちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,622 字 · 55 頁

青空文庫

それをふせぐ方法はどこにもない。敵討ち全盛の時代であってみれば一朝にして禄をはなれた赤穂の浪人たちが、お家断絶、一族離散の恨みを上野介の一身に向って集中しつつあることは疑うべくもない。

上野介は只管、蟄居謹慎して、残りすくなき余生をもっぱら茶道にいそしみながら過していたが、しかし、それにもかかわらず彼の身辺に渦巻く妖気は日を経るにつれて次第に濃厚の度を加えてきた。

元禄十五年十二月十四日。松坂町の吉良邸では納めの茶会が催された。

客は縁辺につながる人たちばかりであったが、夜にはいって降りだした雪が時ならぬ興を添えたので、一座の空気は急にひきしまって、歓をつくすというところまではゆかないにしても、主客共に笑いさざめきあって散会したのは十時を過ぎる頃だった。

一学もその席に列していたが、外来の客が雪の中を駕籠に乗って帰ってゆくのを見送ってしまうと、表門をぎいっと閉める音が聞えた。

「おい、飲み直そう、雪見酒じゃ」

彼は同輩の新見、斎藤、小塚、左右田の四人を誘って、裏門からぬけだし、行きつけのたそや行燈、船宿「新七」の二階へあがって、どっかりと胡坐をかいた。