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いなかがえり
林芙美子随筆集
林 芙美子
線上閱讀林 芙美子《林芙美子随筆集(いなかがえり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 58,157 字 · 118 頁
辛くなるような気持ちだった。一条大宮と云う処はどんな処なのだろう。羅生門と云う芝居を見ると、頭に花を戴いた大原女が、わたしは一条大宮から八瀬へ帰るものでござりますると云う処があったが、遠い昔、一条大宮と云う処はわたしになつかしい人の住んでいた町の名であった。懶いので横になって啄木を読む。
空知川雪に埋れて
鳥も見えず
岸辺の林に人ひとりゐき
むかし空知の滝川と云う町にわたしも泊ったことがある。旅空でこんな歌を読んでいると、夙から旅にいるような気持ちだ。
十二日は朝から雨だった。紫竹桃の本町のお波さんへ電話をかける。正月大阪へ来た折に文楽の人形を頼んでおいたのが出来たかどうか。首がまだついていないけれども、衣装が美しいから早く見せたいと云う返事だった。「そんなら、神戸の帰りに寄りますけど、それまでには出来てる?」と訊くと、あんじょう出来てますと云う返事なので、わたしはすぐ雨の中を神戸へ行き、窪川鶴次郎氏、渡辺順三氏たちと逢い、啄木の講演を済ませて神戸の諏訪山の宿へ二泊して、十四日に尾道へ発って行った。ふと、海がみたくなったからだ。汽車が駅々へ着くたび昔聞き馴れた田舎言葉がなつかしく耳に響いて来る。