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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《柳橋物語(やなぎばしものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 頁
八
「今日は十一日、あさってはお月見よ」
「――そう、九月なのね」
こう云ったと思うと、おせんの眼から涙がぼろぼろ落ちた。おもんが驚いて、どうしたのかと立上ると、おせんは手を振りながらおちついた声で云った。
「いいのいいの、心配しないで頂戴、あたしよくなったのよ」
「――おせんちゃん」
「二三日まえから少しずつはっきりしだしていたの、まだ本当じゃないかと思ってたんだけれど……今日はもう大丈夫だわ、まえにやったことがあるからわかるの、もう大丈夫よ、ながいこと世話をかけて済まなかったわねえ」
「あたしなんにもしやしなくってよ、それより具合がいいのはなによりだから、もう少し暢気にしているんだわね」
「いいえもう本当にいいの、あたしのは病気じゃないとこのまえのでわかっているんだから、あんたこそ休んで頂戴、折角もちなおしたのにまた悪くでもなったら申しわけがないわ、おもんちゃん、さあ、あたしと代ってよ」
八
九月十三日は後の月である。その夜、おもんと幸太郎が熟睡するのを待って、おせんはそっと家をぬけだした。高いうろこ雲が月を隠していた。もう夜半を過ぎた時刻で、どの家も暗く雨戸を閉ざし、ほのかに明るい空の下でしんと寝しずまっていた。