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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《柳橋物語(やなぎばしものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 頁

青空文庫

五

という声がした、「……たいそういいきげんで御妾宅のお帰りですか、偶にはあやからして呉れてもようござんすぜ」

「聞いた風なことを云うな、誰だ」幸太の高ごえが更けた横丁に大きく反響した、「……なんだ権二郎か、つまらねえ顔をしてこんなところになんだって突っ立ってるんだ、呑みたければ呑ましてやるからいっしょに来な」

「そうくるだろうと待ってました、ひとつ北へでもお供をしようじゃあありませんか」

「うわごとを云うな、来いというのは大川端だ、おまえなんぞは隅田川の水が柄相応だぜ、たっぷり呑ませてやるからついて来な」

「若頭梁は口が悪くっていけねえ」

話しごえはそのまま遠のいていった。おせんは雨戸を閉めようとしてこれだけのやりとりを聞いたが、権二郎という名とその卑しげな声とが、いつまでも耳について離れなかった。

五

酔ってした約束なのでどうかと思っていたが、幸太はそれから遠のきはじめ、たまに来てもちょっと立ち話をするくらいで、すぐに帰ってゆくようになった。

二月になって赤穂浪士たちに切腹の沙汰があった。去年からひき続いての評判が、もういちど、江戸の街巷をわきたたせ、春の終るころまで瓦版や、絵入りの小冊子類がいろいろと出た。