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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《榎物語(えのきものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 頁
七
そんな恥はかきたくない、叔母の顔なども見たくない。あたしは出てゆく、この家からもこの土地からも出てゆく。さわは納戸や箪笥をあけ、さし当り必要だと思われる着替えや帯を二三と、金になりそうな道具を集めて包にし、財布の中をしらべた。そして、濡れてもいいように身支度をし、包をしっかりと背中へ括りつけた。
さわは納戸口から土間へおり、結い付け草履をはいて、弟の雨合羽を頭からかぶった。家の中は走りまわる雇人たちでごった返し、どこかで父のどなる声も聞えた。誰もさわに気のつく者はいなかった。みつかって呼び止められたら、力ずくでも出てゆくつもりであった。――土間をぬけたさわは、裏の戸口から外へ出、庭の隅にある大榎のほうへいった。かぶっている雨合羽はひき剥がされ、大粒の雨がびしびしと、顔や手を痛いほど強く打った。さわは前跼みになって風にさからいながら、けんめいに榎のところまで辿り着いた。
「国さん」さわは榎の幹にすがり付いた、「あたし、あなたのところへゆくわ」
そのとき山津波が襲いかかった。
七
それが山津波だとわかったのはあとのことで、そのときはなに事が起こったのか判断がつかなかった。