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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《榎物語(えのきものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 頁
十
「これにはわけがあるんです」さわはちょっと黙っていてから云った、「でもそれはいま申上げられません」
「約束した人がいるんですね」
「それも申上げられません、そのことさえなければあなたの仰しゃるように致しますけれど」さわは急に顔をそむけた、
「――ええ、いまはこれだけしか申上げられませんの」
安二郎は沈黙し、溜息をついて、静かな眼でさわを見、乱暴したことは勘弁してもらいたい、本気ではなかったのだ、と云った。わかっています、どうぞ忘れて下さい、とさわは答えた。
大榎のところは土地が少し高くなっており、陽当りもよいため、まわりには残雪があるのに、そこはすっかり土が乾いていた。さわが茶を始めるとすぐに、柏屋からおすげがかよって来るようになった。そして五月の或る日、そのことが起こった。
十
五月にはいるともう陽が強くなるので、榎の影の動くたびに、そっちへ場所を変えなければならない。茶箪笥や土風炉を移すとき、おすげのいてくれることが、どんなに助かるかよくわかった。――その日の午後、二度めに場所を変えようとしていたとき、おすげが抱えあげた毛氈をとり落し、棒立ちになって街道のほうをみつめた。