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えのきものがたり

榎物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《榎物語(えのきものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 頁

青空文庫

恐怖のあまり半ば気を失ったさわの耳に、父と母の呼び声が現実のもののように聞えた。

「わたしはあんたが好きだ、死ぬほど好きだ、おさわさん」と男が云った、「わたしは助からないかもしれないが、あんたと二人で死ねれば本望だ、聞えますか」

男のさわを抱いた腕に力がはいり、頬をすりよせた。男は走るのをやめ、大股にどこかへ登りながら、続けて云った。あんたが小ちゃいじぶんからずっと好きであった。あんたを自分のものにするためなら、どんなことでもするつもりだった。どんなことがあっても、あんたを他人には渡したくなかった。

「あんたはもうわたしのものだ」と男は喘ぎながら云った、

「わたしはもう一生あんたを放しはしない、死んでも放しはしないぞ」

さわは男の声を夢中のように聞いていた。すると、二人の下で地面がぐらぐらと揺れ、男が悲鳴をあげた。なにかが二人の上へ崩れかかり、さわは泥の中へ叩きつけられた、泥のようでもあり水のようでもあった。さわはなにか手に触ったので、それにつかまり、それに全身を預けてぬけだそうとした。彼女は自分が押し流されているのを感じたが、どっちへ流されているのか、なにが自分を押し流しているのか見当もつかなかった。