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しけいのまえ

死刑の前

幸徳 秋水

線上閱讀幸徳 秋水《死刑の前(しけいのまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,243 字 · 23 頁

青空文庫

趙州和尚は、六十歳から参禅・修業をはじめ、二十年をへてようやく大悟・徹底し、以後四十年間、衆生を化度した。釈尊も、八十歳までのながいあいだ在世されたればこそ、仏日はかくも広大にかがやきわたるのであろう。孔子も、五十にして天命を知り、六十にして耳したがい、七十にして心の欲するところにしたがい矩をこえず、といった。老いるにしたがって、ますます識高く、徳がすすんだのである。

このように非凡の健康と精力とを有して、その寿命を人格の琢磨と事業の完成とに利用しうる人びとにあっては、長寿はもっとも尊貴にしてかつ幸福であるのは、むろんである。

しかも、前にいったごとくに、こうした天稟・素質をうけ、こうした境界・運命に遇いうる者は、今の社会にはまことに千百人中の一人で、他はみな、不自然な夭死を甘受するのほかはない。よしんば偶然にしてその寿命のみをたもちえても、健康と精神力とがこれにともなわないで、ながく困窮・憂苦の境におちいり、みずからたのしまず、世をも益することなく、碌々・昏々として日を送るほどならば、かえって夭死におよばぬではないか。

けだし、人が老いてますますさかんなのは、むろん例外で、ある齢をすぎれば、心身ともにおとろえていくのみである。