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しけいのまえ

死刑の前

幸徳 秋水

線上閱讀幸徳 秋水《死刑の前(しけいのまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,243 字 · 23 頁

青空文庫

痴愚なるによるか。自分にはわからぬが、しかし、今のわたくしは、人間の死生、ことに死刑については、ほぼ左のような考えをもっている。

二

万物はみなながれさる、とへラクレイトスもいった。諸行は無常、宇宙は変化の連続である。

その実体には、もとより、終始もなく、生滅もないはずである。されど、実体の両面たる物質と勢力とが構成し、仮現する千差万別・無量無限の形体にいたっては、常住なものはけっしてない。彼らすでに始めがある。かならず終りがなければならぬ。形成されたものは、かならず破壊されねばならぬ。成長する者は、かならず衰亡せねばならぬ。厳密にいえば、万物すべてうまれいでたる刹那より、すでに死につつあるのである。

これは、太陽の運命である。地球およびすべての遊星の運命である。まして地球に生息する一切の有機体をや。細は細菌より、大は大象にいたるまでの運命である。これは、天文・地質・生物の諸科学が、われらにおしえるところである。われら人間が、ひとりこの拘束をまぬがれることができようか。

いな、人間の死は、科学の理論を待つまでもなく、実に平凡なる事実、時々刻々の眼前の事実、なんびともあらそうべからざる事実ではないか。