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しけんといきなわ

死剣と生縄

江見 水蔭

線上閱讀江見 水蔭《死剣と生縄(しけんといきなわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,104 字 · 31 頁

青空文庫

一

一

武士の魂。大小の二刀だけは腰に差して、手には何一つ持つ間もなく、草履突掛けるもそこそこに、磯貝竜次郎は裏庭へと立出た。

「如何ような事が有ろうとも、今日こそは思い切って出立致そう」

武者修行としても一種特別の願望を以て江戸を出たので有った。疾くに目的を達して今頃は江戸に帰り、喜ぶ恩師の顔を見て、一家相伝の極意秘伝を停滞なく受けていなければ成らぬのが、意外な支障に引掛って、三月余りを殆ど囚虜の身に均しく過ごしたのであった。

常陸の国、河内郡、阿波村の大杉明神の近くに、恐しい妖魔が住んでいるので有った。それに竜次郎は捕って、水鳥が霞網に搦ったも同然、如何とも仕難くなったのであった。一と夏を其妖魔の家に心成らずも日を過して、今朝の秋とは成ったので有った。

大杉明神は常陸坊海尊を祀るともいう。俗に天狗の荒神様。其附近に名代の魔者がいた。生縄のお鉄という女侠客がそれなのだ。

素より田舎の事とて泥臭いのは勿論だが、兎に角常陸から下総、利根川を股に掛けての縄張りで、乾漢も掛価無しの千の数は揃うので有った。お鉄の亭主の火渡り甚右衛門というのが、お上から朱房の十手に捕縄を預った御用聞きで、是れが二足の草鞋を穿いていた。