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しけんといきなわ
死剣と生縄
江見 水蔭
線上閱讀江見 水蔭《死剣と生縄(しけんといきなわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,104 字 · 31 頁
五
「えっ、大師匠が病気の夢……」
竜次郎はぎょっとせずにはいられなかった。
五
交通不便の時代には、隔絶している人の安否を気遣うのが、今よりも深甚に迫るので有った。電信電話郵便の無い世の中では、自然に想像を走らせる場合が多かった。連れて迷信を昂らせずにはいられなかった。
占者の言葉とか。夢見とか。烏蹄きとか。下駄の鼻緒の切れた事にも、凶兆として心配するので有った。それ故、夢見の悪さにそれを事実でも有るかの如く、遠くから見舞に立つという事は、決して突飛でも軽忽でも無いので有った。
竜次郎は自分が其夢見の為に江戸へ行くのだから、娘の事にも疑いは挟まなかった。然うして同じ境遇という点に於て、急に同情の念を生じて来た。
「その大師匠というのは……」と竜次郎は問うた。勿論行手を急ぎながらで有った。
「私は旅廻りの軽業師の、竹割り一座の者で御座いまして、小虎と申しますが、一緒に巡業に歩いています師匠は竹割り虎松、その又師匠は竹割り虎太夫と申しまして、此道の大師匠で御座います」と娘は初めて身の上を打明けた。
「ほう、竹割り一座というのは聞いていた」
「虎太夫は中気で、本所石原の火の見横町に長らく寝ていますが、私は此大師匠に拾われました捨児で、真の親という者を知りませんのです。