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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《泥棒と若殿(どろぼうとわかとの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 頁

青空文庫

しかし成信にはもうそんなことは興味がない、誰が勝ち誰が負けようと、権力の席がどう変ろうと、彼にはなんの関わりもないことだ。

――そうか、父上はお亡くなりなすったのか、御臨終は平安だったろうか、中屋敷の母上はおなごりを申しにあがれたろうか。

平馬はなお続けていた。この山荘は早くから自分たち同志の者で護って来た。すでに滝沢家の監視はゆるんでいるが、情勢がはっきり決定するまでは油断ができない。非常手段を打たれる心配もあるから、いま暫らくこのままかげから守護をしている、若殿にもそのつもりで辛抱して頂きたい、などとも云った。

そのなかで一つ意外なことがあった。それは三度あらわれた刺客も、ふいに矢を射かけた者も、みな梶田一派の人間だったということで、これには成信もびっくりした。

「まことにやむを得ぬ、苦肉の策でございました」

平馬は歯をくいしばった声でそう云った。

「滝沢党ではかねてから、若殿のお命をおちぢめ申すてだてにあいみえました、それで逆手を打ったのですが、かれらは幸いこれをみやぶることができず、手を濡らさずして目的を達すると思ったようすでございました、――かような事情で、万やむを得ない窮余の策ですから、不礼のだんはどうぞ幾重にもお赦しを願います」