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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《泥棒と若殿(どろぼうとわかとの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 頁
一
一
その物音は初め広縁のあたりから聞えた。縁側の板がぎしっとかなり高く鳴ったのである、成信は本能的に枕許の刀へ手をのばした、しかし指が鞘に触れると、いまさらなんだという気持になって手をひっこめた。
――もうたくさんだ、どうにでも好きなようにするがいい、飽き飽きした。
こう思いながら、仰向きに寝たまま腹の上で手を組み合せた。右がわの壁に切ってある高窓の戸の隙間から、月の光が青白い細布を曳いたように三条ながれこんでいる。ついさっきまで夜具の裾のほうにあったのが、今はずっと短かくなって、破れ畳の中ほどまでを染めているにすぎない、するともう三時ころなのだなと思った。
物音は広縁からとのいの間へはいった。ひどく用心ぶかい足つきである。床板の落ちているところが多いから、そこでもときおりぎしっぎしっと軋むが、そのたびに物音はぴたりと止って、暫らくは息をひそめているようすだった。そのうちにあまり用心しすぎたせいだろう、畳の破れめにでも躓ずいたらしく、どさどさとよろけざま、なにかを踏みぬく激しい音が聞えた。
――切炉へ踏みこんだな。
成信はこう思ってついにやにやした。