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みおつくし
澪標・落日の光景
外村 繁
線上閱讀外村 繁《澪標・落日の光景(みおつくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,889 字 · 268 頁
そう言えば、鏡というものは冷いものだ。どんなものの影も映すけれど、どんなものの影も止めはしない。そんなものを、昔の母は娘に遺したという。哀れだった。
妻が亡くなって以来、私はなにに対してもあまり抵抗を感じなくなってしまったようだ。胸の中にぽかんと穴が開いているような感じである。亡くなった当座は、呆然として、却って朝から酒など飲み、いかにも夢うつつのようであったけれど、こうしてひとりになってみると、急に空洞の大きさが感じられる。不意に得体の知れぬ感情が湧き起こってきた。思わず、私は立ち上る。ぐるぐると部屋の中を歩いてみる。子供達の破れた靴下や、汚れたものが脱ぎ捨てたままである。
「春も過ぎ、夏もくるのに、冬の支度をどうしよう」
病床の妻はよくそういったものだった。が、その妻も死んでしまったではないか。なにごともなるようにしかなりやしない。今年の冬は、そらこんなに暖いではないか。それよりこの自分をどうしよう。
書斎の床の間には、妻の遺骨が花々に飾られて置かれてある。私はそっとその横の机の前に坐ってみた。何日ぶりかのことだった。
不意に、雲のような哀しみが湧いて来て、ああと思ううちに、哀しみは涙となって溢れ出た。