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はいいろのきおく

灰色の記憶

久坂 葉子

線上閱讀久坂 葉子《灰色の記憶(はいいろのきおく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 65,588 字 · 132 頁

青空文庫

私は、学校や友達と全く絶縁された位置を、さみしいとも思わなかったし、後悔もしていなかった。

物価高で、毎月のように月給は昇った。私は小さな陶器の灰皿を買ったりしてたのしんだ。女でありながら、御化粧したりしないことを小使いのおばさんが不審がった。

「ちっと、口紅でもぬんなはれ」

私がよく働くのでとりわけ私をかばってくれる彼女はそう云った。私は、頭髪に電気をかけ、ぽおっと御化粧をはじめた。分家さんは、にたにたと私の顔をみながら笑った。彼はいつも口をななめにあけて大きな机にぼんやりすわっていた。彼は、私より以上に数学が出来なかった。てれくさそうに、ゆっくり算盤と指をつかって、昼飯のやき飯の代金を私に手渡したりした。彼は怒りっぽく、怒鳴りつけることが度々あった。どもりで、唾液をそこらにまき散らす癖があった。

「わしのパイプ、パパパイプは」

これは毎日必ずのように彼の口からとび出す用事であった。ライターもたばこもそうであった。私は、暇があると彼の様子を観察していた。パイプの置き場所を覚えていてそっと教えてあげた。教え方がはやすぎても気に入らなかった。彼の知合いの電話番号を暗記していて、――というのは、彼は決して自分で控えておくことをしなかった。