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はいいろのきおく

灰色の記憶

久坂 葉子

線上閱讀久坂 葉子《灰色の記憶(はいいろのきおく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 65,588 字 · 132 頁

青空文庫

田舎出の少年は、おそるべき健啖ぶりであった。彼は、冷いのみものや、氷菓子を好まなかった。鉄板にじいじい音をたてて焼かれる丸いかたまりを、卵起しのような四角いブリキで――こてというそうだが――大胆に切り目をつけて、ぱくつく彼の口もとを私ははしゃいだ気持で眺めていた。

大岡少年と私のことは噂にのぼらなかった。彼は人の注目の的になるはずがない位みにくい容貌であり滑稽なほど間抜けてもいた。皆がさわぎたてるのは、復員して帰店した二十七八の社員や、ふっくらした赤ら顔の少年達であったから。私は、彼が目上の人に叱られている時は、きいていないふりをしていた。彼は毎日何回となく、気がきかん、とあっちこっちから怒鳴られていた。私は出来るだけ彼をかばって、一度に三つ四つも仕事を頼まれている時は、自分の部所をはなれてまで手伝った。そのために、私も叱られてしまうこともあった。ポケットに手をつっこんで、ぽやっと事務所の隅々を眺めている分家氏は、時々私と大岡少年の口をきいているさまに、ゆがんだ口許をさらにひんまげて、おかしな笑いを洩らした。私は、分家氏と目が会うと、必ず、はじらいの微笑をつくり上げて、愛想よく首をかしげた。