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ほのおのなかにうたう

焔の中に歌う

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《焔の中に歌う(ほのおのなかにうたう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 頁

青空文庫

錦木家の跡取りで、近頃売り出しの小説家錦木幸麿――と深井少年はすぐ覚りました。

「相変らずお盛んで」

最初に、高木博士が口を切ります。

「イーエ、もう」

「第一、あなたの崇拝者の多いのには驚きましたよ、どこのサロンへ行っても、近頃はあなたの話で持ち切りです」

「まあ先生極りが悪い、そんな事は止して下さい、今も深井さんにお引合せしたんですが、私の第一番のパトロンは、それ……あの方、聞えるでしょう、リンデンバームのメロディが……」

高木博士は一寸小首を傾けましたが、

「あれは、ハーモニカでは無いですか」

「え、ハーモニカですワ、あのハーモニカを吹いてる按摩の小僧さんが、私の一番大事なパトロンなんです」

「ほう、それは面白い、深い仔細がありそうですね、差支えなかったら聴かして下さい」

美しい歌い手とドクトルが、こんな話をして居る間に、錦木家の若様は、そっと窓へ行って、ハーモニカを吹いて居るパトロンの姿を見て居ましたが、やがて酢っぱいような顔をして座に戻って来ました。

「大変な按摩の子ですね」

「大変……そう大変といえば大変ネ、けれども、あんなに私の音楽に感動してくれて、私の心持を掴む聴き手は無いんです、あの按摩の子一人の為に、私はリサイタルを開いても、決して惜しいとは思いません」