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いちろうじん
犬田卯短編集二
犬田 卯
線上閱讀犬田 卯《犬田卯短編集二(いちろうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,383 字 · 103 頁
が、一枚の馬券がたった五分間で、五円も十円もかせいでくれる! そいつを考えるとなあ君、馬鹿々々しくって百姓仕事なんか……と捨て鉢気を起して、俺だって人間だ、馬券買って悪かろうはずはあるめえ!
みごとに五円札を二倍にも五倍にもして帰って来る者があったのである。そうした事実が――これこそまさに、求めに求めていた幸運、天から降るのか地から湧くのか知れないが、とにかく小判が転がっているようなものだった――そいつが疫病やみのように村人の魂へとっついてしまった。
競馬は春秋二季、あたかも農閑期に、いくらかの現なまが――たといそれは租税やなんかのためには不足だったにしても――村人のふところへ宿かりした時分にあったのだ。仙太が今、女房には内密で持ち出した五円札も、実はそうした月末の納税にぜひ必要なものだった。
――十倍にして返さい! 畜生、けちけちしやがるねえ!
彼は村を出端れて野の向うに町のいらかがきらきらと春の日光を受けてかがやいているのを眺めると、気が大きくなってしまった。この日の競馬を知らせる煙火がぽんぽんと世間の不景気なんか大空の彼方へ吹っ飛ばしてしまいそうにコバルト色の朝空にはじけた。