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いちろうじん

犬田卯短編集二

犬田 卯

線上閱讀犬田 卯《犬田卯短編集二(いちろうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,383 字 · 103 頁

青空文庫

おびとき

一

「いつまで足腰のたたねえ達磨様みてえに、そうしてぷかりぷかり煙草ばかりふかしているんだか。」早口に、一気にまくしたてる女房のお島であった。「何とかしなけりゃ、はアすぐにお昼になっちまア、招ばれたもの行かねえ訳にいくかよ、いくら何だって……」

向う隣の家に「おびとき」祝があって――もっとも時局がら「うち祝」だということだが、さきほどおよばれを受けたのであった。

「ほんの真似事ですがね、おっ母さんと子供らだけ、どうか来ておくんなせえよ。」「そうですけえ、まア、おめでとうござんすよ……じゃア、招ばれて行きますべよ。」

とは答えざるを得なかったものの、さて招ばれてゆくには、村の習慣として、ただでは行けなかった。三十銭や五十銭は「襟祝い」として包まなければならぬ。そしてその三十銭が――子供らは連れてゆかず、彼女ひとりゆくことにして――いま、問題だったのである。

鶏は寒さに向ってからとんと卵は生まなかった。春先から夏へかけての二回の洪水と、絶えざる降雨のために、田も畑も殆んど無収穫で、三人の子供らの学用品にさえ事欠くこの頃では、お義理のためにただ捨てる(実際、そう思われた)金など、一文も彼女は持たなかったのである。