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やのしのとい

矢押の樋

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《矢押の樋(やのしのとい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,468 字 · 29 頁

青空文庫

」

「如何にも、よく存じて居ります」

「知っていてなぜ左様なことを申す、城壁の石一つ動かすにも、公儀のお許しを得なければならぬ厳重な掟があるのだぞ、殊に当城の内濠は格別のもので、いざ合戦の場合にはこうと、軍略のうえに大きな役割を持って居る、その大切な濠へ樋を通し、水を干すなどという馬鹿な事が出来ると思うのか」

「例えまた矢押どのの申す通り」外記の怒りを執成すように、老職の一人赤松靱負が口を挿んだ、「若し内濠へ樋を掛けることが出来るとしても、高の知れたお濠の水量ではどれ程の役にも立たぬであろう」

「いや水の多寡ではない、当城の護りは内濠に懸っている、濠を空にすれば、伊達藩の押えとして置かれた城の意味が無になってしまうぞ」

人々は口を揃えて非難し始めた。

向田の城は高城である、丘陵の上に在って脊に陸前国境に連る山塊を負っている、だから敵に攻撃された場合には、その高い位置を利用して、濠の水を一時に切って落すという策が秘められていた。……そんな戦法がどれだけ実際の役に立つか、考えるまでもなく分りきった話である。然し封建的な当時の人々は実際の価値判断をするより先に、「城」