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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

浴室はいくつかあったが、「神の湯」という、ひろい湯槽に入った。

青く淀んでいる、ぬらりとした湯に、首まで浸ると、金五郎は、なにか、ぐったりとなって、不思議な疲れをおぼえた。白い湯気のなかで、眼をとじると、夢を見ているような心地になる。あまりよくない夢である。頭が重く、口中がほろ苦い。

その耳に、すぐ傍で、

「兄ちゃんや」

という、聞きなれぬ声が聞えた。眼をあけた。

さっきから、一人で、蛇口のすぐ下に浸っていた、角刈頭で、色の青黒い、全身に彫青をほどこした、眼つきの鋭い男である。

「わたしですか?」

と、金五郎は、問いかえしたが、すぐに、この男を見るのは、はじめてではないことに気づいた。

先刻、湯槽に降りて来る前、二階の大広間の脱衣場で、番茶をすすり、塩せんべいをかじりながら、清七と高話をした。そのとき、二間とははなれていないところに、浴衣の諸肌をぬいで一人の男が寝ころがっていた。その男にちがいない。むきだしの痩せた身体を、いっぱいに埋めつくしていた、般若と大蛇の彫青に、見おぼえがある。四十年配だ。

二人は、蜜柑のこと、※のこと、刀剣のこと、浄瑠璃のこと、黒石のヤスのこと――手あたりしだいに、話題をとらえて、駄弁を弄していた。