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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

マンに、懐中電燈を照らしかけた中年の巡査は、おどろいた顔つきで、

「こりゃあ、玉井の奥さん、どうなさったのですか」

マンは微笑を浮かべて、

「転びました。ここは危いですね。こんなに、水道工事の跡が穴だらけになっとるとに、街燈もないもんじゃけ……」

「怪我なさっとるようにあるが、……」

「大したことはありません。……それでは、これで」

「大丈夫ですか」

「大丈夫です」

マンは歩きだしたが、あまり大丈夫とはいえなかった。身体の方々が疼く。蹴られた横腹がずきずきし、捻挫したのか、跛を引かなければ歩けない。人通りのないさびしい夜道なのが幸だった。巡査は、気づかわしげに、しばらく見送っていたが、くるりと回転すると、反対の方角に、坂道を降って行った。その靴音の遠ざかるのを聞きながら、マンは、つぶれるほど、下唇を噛んで、

(お前らに、負けるもんか)

そんなえたいの知れぬ言葉を、はげしい憤りのなかで、絶叫していた。涙のにじんでいる眼が、ギラギラと、妖しく、光る。

日若座の方でも、椿事が持ちあがっていた。

「夕立」の次の幕は、狐忠信であったが、劇が佳境に入って来たとき、舞台の中央に大きく組み立てられてあった観音堂のセットが、巨大な音響とともに、くずれ落ちたのである。