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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(上)(かつしかみやげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 頁
夜烏子は山の手の町に居住している人たちが、意義なき体面に累わされ、虚名のために齷齪しているのに比して、裏長屋に棲息している貧民の生活が遥に廉潔で、また自由である事をよろこび、病余失意の一生をここに隠してしまったのである。或日一家を携えて、場末の小芝居を看に行く日記の一節を見ると、夜烏子の人生観とまた併せてその時代の風俗とを窺うことができる。
明治四十四年二月五日。今日は深川座へ芝居を見に行くので、店から早帰りをする。製本屋のお神さんと阿久とを先に出懸けさせて、私は三十分ばかりして後から先になるように電車に乗った。すると霊岸町の手前で、田舎丸出しの十八、九の色の蒼い娘が、突然小間物店を拡げて、避ける間もなく、私の外出着の一張羅へ真正面に浴せ懸けた。私は詮すべを失った。娘の兄らしい兵隊は無言で、親爺らしい百姓が頻に詫びた。娘は俯向いてこそこそと降りた。癪に障って忌々しいが叱り飛す張合もない。災難だと諦めた。乗り合わした他の連中は頻に私に同情して、娘とその伴の図々しい間抜な態度を罵った。飛沫を受けたので、眉を顰めながら膝を拭いている婆さんや、足袋の先を汚された職人もいたが、一番迷惑したのは私であった。