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らん
蘭
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《蘭(らん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 頁
生之助は、土まみれの手をこすり合わせながら立って来た。
「ことしはたしかだ。つぼみのつきが、しっかりしている。一輪はきっと咲かせてみせるよ」
「話があるんだ」平三郎は友の目を見まもりながら云った。「……いや、このまま聞く耳のないほうがいい。じつは松子さんのことなんだ」
そして平三郎は話しだした。できるだけ、ことばや感情をかざらないように、自分の弁護をしないようにつとめながら……生之助は、だまって聞いていた。かれもいつかは、こういう時の来ることを予想していたのだ。びんのあたりが、やや青くなっただけで、思ったほどおどろいたようすはなかった。
「いちおう相談というかたちにすべきだが、おたがいの仲では、ゆずりあいになりそうだ。それでは気持が割りきれなくなる。どちらかが苦しまなければならないとしたら、初めから、いさぎよく、はっきりするほうがいいと信じた。これだけは、わかってもらいたいと思う」
生之助はうなずいた。そして、手の土をはたきながら、しずかに空をふりあおいだ。雲のながれる高い空を、ゆっくりと渡っていく鳥がある。その鳥と雲との距離の渺々たる深さが、油然とかれの心に悲しい思いをかきたてた。