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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁

青空文庫

九月の初めである。この当時はまだ旧暦であるから、朝夕はもう薄ら寒くなって来たので、お鶴は新しい袷を着て町内の湯屋へ行った。きょうは午頃から細かい雨が降っていたので、お鶴は傘をかたむけて灯ともし頃の暗い町をたどって行くと、もう二足ばかりで湯屋の暖簾をくぐろうとする所で、物につまずいたようにばったり倒れた。鋭い刃物に脇腹を刺されて殆んど声も立てずに死んだのである。往来の人がそれを発見して騒ぎ立てた頃には、雨の降りしきる夕暮れの町に加害者の影はみえなかった。それが洋服を着た男であるともいい、あるいは筒袖のようなものを着た女であるともいい、その噂はまちまちであったが、結局とりとめたことは判らなかった。

いずれにしても、この不意の出来事が界隈の人びとをおどろかしたのは言うまでもない。係りの役人の取調べに対して、おすまはこういう事実を打明けた。

「わたくしの連合いは大沢喜十郎と申しまして、二百五十石取りの旗本でございましたが、元年の四月に江戸を脱走して奥州へまいりました。その時に用人の黒木百助と、若党の村田平造も一緒に付いてまいりましたが、連合いの喜十郎と用人の百助は白河口の戦いで討死をいたしました。