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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁
女侠伝
一
I君は語る。
秋の雨のそぼ降る日である。わたしはK君と、シナの杭州、かの西湖のほとりの楼外楼という飯館で、シナのひる飯を食い、シナの酒を飲んだ。のちに芥川龍之介氏の「支那游記」をよむと、同氏もここに画舫をつないで、槐の梧桐の下で西湖の水をながめながら、同じ飯館の老酒をすすり、生姜煮の鯉を食ったとしるされている。芥川氏の来たのは晩春の候で、槐や柳の青々した風景を叙してあるが、わたしがここに立寄ったのは、秋もようやく老いんとする頃で、梧桐はもちろん、槐にも柳にも物悲しい揺落の影を宿していた。
わたし達も好きで雨の日を択んだわけではなかったが、ゆうべは杭州の旅館に泊って、きょうは西湖を遊覧する予定になっていたのであるから、空模様のすこし怪しいのを覚悟の上で、いわゆる画舫なるものに乗って出ると、果して細かい雨がほろほろと降りかかって来た。水を渡ってくる秋風も薄ら寒い。型のごとくに蘇小小の墳、岳王の墓、それからそれへと見物ながらに参詣して、かの楼外楼の下に画舫をつないだ頃には、空はいよいよ陰って来た。さして強くも降らないが、雨はしとしとと降りしきっている。