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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《赤ひげ診療譚(あかひげしんりょうたん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 頁

青空文庫

とか、「どこそこの誰かは臭いめしを食ったことがある」などと云う類いで、その相手は長屋内でも特に貧しい家とか、気の弱い家族に限られており、「誰それは泥棒だ」と云う例がいちばん多かった。

「ここのところかかって、五郎吉一家のことを悪く云ってるようです」と卯兵衛が太息をついて云った、「なにしろ男出入りだけでも、いまに一騒動ありゃあしねえかと思って気が気じゃあねえ、まったく弱ったもんです」

そんな女ならどうして追い出さないのか、と登が訊いた。すると女房は向うへ立っていき、卯兵衛はなんと云いようもない一種の身振りをした。

「そんななまやさしいあまじゃありません」と卯兵衛は吐き出すように云った、「それができるくらいならとっくにやってますよ」

おきぬという女の、臼のような頑丈な躯つきや、油で光る赤毛の小さな髷や、まっ白に塗りたてた平べったい、頬骨の尖った顔や、露骨なながし眼を思いだして、登は背中がぞくぞくするのを感じた。

――そういう女はいるものだ。

あまりにあくの強い話を聞いて、殆んど憎悪におそわれながら、登は自分をなだめるようにそう思った。どこの長屋にも十兵衛と似たような、頭のおかしい者が一人や二人はいるものだし、またおきぬのように、ふしだらで恥知らずで、近所にもめごとを起こすような女もいるものだ。