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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《赤ひげ診療譚(あかひげしんりょうたん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 頁

青空文庫

六

登は煎薬の土瓶を取ったが、思い直して、冷たくなっている湯沸しから、空になっている急須へ少し注ぎ、おふみに持っていってやった。

「気をつけて、少しずつ啜るんだ」と登は注意を与えた、「急須の口からじかのほうがいい、用心しないと喉にしみるよ」

おふみは顔をするどく歪めたが、噎せはしなかった。五郎吉は軽い寝息をたて始めた。それは疲労し尽したというより、精神も肉躰も解放され、安楽にのびのびと眠りこんでいる人の寝息のようであった。おふみは静かにそちらを見、長いこと良人の寝顔を見まもっていた。

「こんなふうに寝ているのは初めてですよ」とおふみはしゃがれた囁き声で云った、「いっしょになってから、そこそこ十年にもなるけれど、この人がこんなに、いい気持そうに寝ているのは初めてですよ」

六

「どうしてあたしたちを死なしてくれなかったんでしょう」

暫くしておふみがそう云いだした。

「どうしてでしょう先生」とおふみは天床を見まもったまま云った、「考えに考えたあげく、そうするよりしようがないから、親子いっしょに死のうとしたんです、そのほかにどうしようもなかったのに、なぜみんな放っといてくれなかったんでしょう」